弁護士コラム

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2015.05.09更新

提言型ニュースサイト「BLOGOS」に,子ども虐待を扱った気になる記事を見つけたので,取り上げてみます。

http://blogos.com/article/111559/

記事の主題は子ども虐待を引き起こす「大人のオトコ」について,哲学好きな筆者がその原因を考察するというもの。筆者の言い分が哲学的に正しいのかどうかは何とも言えませんが,私が気になったのは,筆者が議論の出発点としていた次の記述です。

[ quote ]

児童虐待事件の加害者の75%は「男親」らしい。これは実父(40%)と継父・愛人(35%)に内訳される。

児童虐待,過去最多の476件 加害者の約4割が「実父」(アメーバニュース, March 8, 2013)

実母は20%程度で,加害者別にみると少数派だ。が,虐待死に至らせた親のトップは母親になる。

児童虐待,加害者の64%実の親 12年摘発過去最多(日本経済新聞, March 7, 2013)

全体的には虐待は「大人のオトコ」の犯罪ではあるが,少数だが殺人にまで至る事件(21件/28件)は大人のオンナが引き起こしている。

だから児童虐待を考えるとき,まずは1.「なぜ大人のオトコが引き起こすのか」という点を考える必要がある。その次に,2.「凶悪ケースではなぜ大人のオンナが多いのか」ということになる。

2.は,オンナの場合はDVの加害者として自らのストレスがパートナーに向かうことはないので(むしろDVの被害者),日常のストレスがパートナーではなく,身体的に自分より弱い子どもに向かう,という点で説明される場合もあるようだ。

凶悪事件はオンナが主原因だとしても(僕はこの裏には,「オンナへの操作的関わり」等で,何らかの意味でオトコが絡んでいると推察するが),数的には大人のオトコが圧倒的に多いことから,児童虐待とはまずは大人のオトコが加害者である,と僕は位置づけている。

[ unquote ]

ここで引用した記述は,実はまったくの誤りです。

このブログで引用されているデータはいずれも警察庁の統計に基づいていますが,これは警察が「事件」として認知した件数,言い換えれば「警察沙汰」になった子ども虐待の件数で,現実に起こっている子ども虐待の件数とイコールではありません。より広く子ども虐待のケースを扱っている児童相談所の統計によると,全国の児童相談所が2012年度に対応した子ども虐待相談の件数は66,701件に達していて,警察庁が同じ年に「事件」として認知した472件というのは,氷山の一角にも満たないことが分かります。つまり,このブログが依拠しているデータは,警察沙汰になるような深刻なケースだけを扱っていて,子ども虐待の実情を正確に表しているわけではありません(ちなみに,アメーバニュースが扱っているデータを前提としても,「男親」の割合は75%にはなりません。)。

では,実際は誰が子ども虐待を引き起こしているのかというと,先ほど取り上げた児童相談所の統計(2012年度)によると,虐待者の内訳は実母が57.31%と圧倒的に多く,他方,実父は28.95%(実父以外の父を含めても35.16%)にとどまります。もちろん,児童相談所がすべての子ども虐待を把握しているわけではありませんが,警察庁の統計よりも実態を正確に反映していることは疑いありません。

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001115458

「凶悪事件はオンナが主原因」という表現も,確かに,過去10年ほどの間に発生した子ども虐待による死亡事例546件のうち,実母が虐待者となっているケースは55.68%(実母が実父などとともに加害者となっているケースは67.40%)と多いのですが,警察庁の統計が表しているように,警察沙汰になるケースを全体として見ると実父が38.8%を占めていて,何をもって「凶悪」とするのかによって,評価は違ってきます。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000057947.html

子ども虐待は,犯罪や非行と同じく,誤解や偏見の多い社会問題。正しい対策をとるには,正しいエビデンスが必要ですね。

あびこ

投稿者: 安原・松村・安孫子法律事務所

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