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2015.11.17更新

kokoline

少し前,子どもとメディアに関する調査研究を行うNPO法人「子どもとメディア」さんの定期誌にエッセイを掲載していただきました。

http://komedia.main.jp

エッセイのリクエストをいただいたのは初めてだったので,何を書こうかと悩みましたが,自分の中で「メディア」と聞いて思いつく話がこれしかなかったので,こんな感じで書いてみました。

よければご一読ください。

あびこ

[ quote ]

午前1時。早くも本日1通目のメールが届く。送り主は今年で20歳になるユイ(仮名)だ。

「マジヤバイでんきとまる」

ユイは精神的に不安定な母親の下で育った。父親が誰なのかは母親も知らない。母親の入院や失踪のたびに児童相談所に保護され,母親が戻ってくれば自分も家に帰る。しかし帰ったところでごはんが出てくるわけでもない。覚えているのはいつも見知らぬ男が出入りしていたことくらいだ。

そんな生活の末,彼女は15歳で家を出た。しばらくは水商売を続けていたものの,トークに自信が持てず,今はワリキリ(個人売春)が唯一の収入源。「ピンハネがない。好きな時に働ける。コミュ力がいらない。」それが魅力だという。

さて,人は彼女をどう見るだろうか。母親をだらしないと責めるだろうか。ネグレクトが分かっていながら「家庭復帰」を続けた児童相談所を批判するだろうか。夜の世界に飛び込んだことを自業自得と切り捨てるだろうか。出会い系サイトの規制を叫ぶだろうか。

質問を変えよう。では,あなたには何ができるだろうか。ワリキリをやめさせるために,いかに危ないかを切々と語りかけるだろうか。それとも叱りつけるだろうか。他の仕事を紹介するだろうか。

そもそもこの社会は,彼女に今より魅力的な生き方を提案できるだろうか。

翻って,私はユイに何をしているのだろうか。実をいうと,私は彼女に何もしていない。正確にいえば,私は彼女に何をしてやることもできない。電気が止まっても,私が肩代りできるわけではない。ヒーローのようにピンチから救い出せるわけでもない。恋人として支え慈しむことも,父親として受け止め愛することも,私にはできない。

でも私は,彼女とつながっている。これも正確にいえば,私は彼女とつながることしかできない。私は彼女に,事あるごとに電話をかける。メールを送る。事がなくてもLINEでメッセージを送る。そんな無数のコミュニケーションから,私は彼女の「いま」を読み取る。SOSを拾う。

つながってさえいれば,少しは早く電気を復旧できるかもしれない。いい病院に連れて行けるかもしれない。せめて今日だけでも,温かい気持ちで眠ってもらえるかもしれない。いのちを守れるかもしれない。

つながっていなければ,彼女はすべてを失うかもしれない。

私はこうやって,若者たちとつながっている。私と彼らをつないでいるのは,このケータイが発信する微かな電波だけだ。

*文中のケースは,個人が特定されないように,大幅に変更を加えています。

[ unquote ]

投稿者: 安原・松村・安孫子法律事務所

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